イノベーションは「熟知」から始まる<IT活用事例>
ノウハウ共有企業間連携製造業100人以上EDI・取引先との情報連携生産管理・原価管理販売管理
2014年 冬号 2016.07.06
昭和電機株式会社 代表取締役社長 柏木武久氏
協力会社と双方で在庫量を削減
徹底した「熟知」が活路を開く
短納期・最少在庫 取引先とのネットワーク
大阪府大東市・送風機製造業 昭和電機の場合
福島からのトラック便は100回を超え、納品数は308台──東日本大震災の原発事故により、付近の浮遊物を集塵する送風機が急きょ必要になった。依頼を受けたのは大阪府の昭和電機。受注から3日で納品できる同社のスピードが、少しでも早く機械を設置したい現場の要望に応えたのだ。
本誌で継続的に事例を紹介している昭和電機は、昨年、中小企業IT経営力大賞2013の審査委員会奨励賞を受賞。止まることなく、進化を続けている。
会社名 | 昭和電機株式会社 |
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所在地 | 大阪府大東市新田北町1番25号 |
設立 | 1956年(創業 1950年) |
従業員数 | 183名 |
事業内容 | 電動送風機、環境機器などの製造・販売 |
URL | http://www.showadenki.co.jp/ |
落ち込んだ時期に始まった取引先とのEDI
2008年秋からのリーマンショックは、昭和電機にも大きな打撃を与えた。売上は前年の43%ダウン(経常利益は黒字を確保した)。
しかし、それまでの改革で経営基盤を強化していた柏木武久社長(記事上部写真)は、早々に雇用を守ることを宣言し、ひるむことなく例年の新卒採用を継続。翌年には、2007年から取り組んでいた取引先とのネットワーク構築による電子受発注(EDI)システムを構築した。
昭和電機はこれまで生産管理・在庫など基幹システムの構築によって、短納期と最少在庫(製品在庫はゼロ)を追求してきた。これを協力会社にも広げようというのだ。柏木社長は次のように意図を説明する。
「当社は多くの工程を取引先との協力関係で行っており、1社あたり平均25年の長いお付き合いをしています。自社の在庫が削減できても、協力会社にその分の負担をかけることがあってはいけません。デマンドチェーン全体として在庫を減らしたいと考えました」
しかし、協力会社の多くはまだパソコンを持っていない状況だった。そこで、昭和電機のIT活用を支援しているITコーディネータ・森下勉氏、岩佐修二氏を講師に、月に1回の勉強会を開催。業務の流れをどう改善しITを活用できるか学んだという。
「いとはんねっと」への思い 最大67 %の在庫削減
EDIシステムでは昭和電機の受注情報や在庫情報を公開し、各協力会社がインターネット経由で閲覧できるようにした。担当の営業推進部・栗山隆史氏は次のように話す。
「この情報を見て、協力会社さんは発注予測や、無駄のない製造準備をすることができます」
システムは「いとはんねっと」と名付けられた。「絆という字は糸と半からできているので“いとはん”なのです」と栗山氏。協力会社との絆を大切にする、同社の思いが込められたネーミングである。
業務プロセス改善と「いとはんねっと」導入の後、協力会社24社は、最大で67%の在庫削減に成功した。昭和電機側も作業時間48%削減、部品在庫金額21%削減などの改善成果を上げ、発注者、受注者双方がメリットを得た。
「いとはんねっと」の費用は、各社のパソコンやネットワーク接続費を除き昭和電機が負担している。
「もともとファミリーのような位置づけですし、費用負担があっても、早く納得して着手していただけるならメリットが大きい。大阪流、実を取る考え方でしょうか」と、柏木社長は笑顔で話す。
情報を集めて顧客のことをもっと知る
自社内のIT活用では、営業担当者にiPadを配布し、カタログなどの情報を手元ですぐに表示できるようにしている。「この4月からは、見積書の情報やお客様の情報も、セキュリティを保ちながら出先で活用できるようになります」(栗山氏)とのことである。
年間売上高は60億円に回復し、経常利益率約16.3%と業績もリーマンショック前に近づいている。
しかし、国内の製造メーカーが海外に進出するなか、今後、送風機の総需要は大きな伸びが見込めないという。同社はタイに現地法人を設立し現地での関係性を国内での受注につなげること、シェア拡大への営業強化、新事業の立ち上げなどに取り組んでいる。そして、そのキーワードは「熟知」だと柏木社長は言う。
「お客様が求める価値・利便性とは何か──商売は相手のことを知らなければ始まりません。徹底的に熟知し考えることです。熟知をすれば、必ずイノベーションは実現します」
昭和電機は2007年より、毎年「知的資産経営報告書」を発行している。同社のITは「知る力」を下支えしているのだ。