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日々変わる生産計画にAI活用を 最適化の起点は顧客ニーズにあり

2018年 秋号 2018.10.11


積極的な投資で攻めの経営 -IT活用事例①
  福井県坂井市 株式会社オーカワパン(パン製造)

しっとりもちもちの「パンドミー」、コロンとかわいい「たまごぱん」など約40種類、福井県のスーパーマーケットなどに並ぶオーカワパンのパンである。

戦後、製粉、製麺、製パン会社を営んでいた創業者の大川重義氏が「いちばん難しくて面白いから」と製パン業に事業を集中して70年あまり。顧客の支持を受け、出店オファーも受け続けている。

 

会社概要 株式会社オーカワパン
住所 福井県坂井市丸岡町猪爪2-501
代表者 代表取締役 大川恭史氏
設立 1964年(創業1949年)
従業員数 81名
事業内容 パンの製造・卸販売
URL http://okawapan.co.jp/

 

当日の売行き具合から翌日の製造を決める

朝と昼の1日2回、本社工場の焼き立てパンを約150店舗の各売場に届ける。同社は、発注から売場づくりまで、自社で一貫して行うスタイルを特徴とする(実売分が売上になる)。毎日営業担当者が売場を回り、販売結果を見て翌日の計画を立て、製造部門に発注する。

工場内は3つのラインで複数の商品を必要なだけ製造。パンの製造工程は大きく仕込み→成形→焼成→包装に分かれるが、商品ごとに発酵や窯入れの時間が異なる。さらに出荷時間から逆算してのスケジュール組みや工数、作業担当者のスキルなど複数の変数がある。

同社はすでに商品アイテムごとの売上や原価率、人時生産性は把握できており、複雑な条件下で生産設備の稼働率を上げるための最適化が課題となった。

そこで、2017年よりAI生産管理システムの構築をスタート(福井県の「平成29年度補正予算IoT・AI等導入促進事業補助金」に採択された)。

 

 

しかし、これは単なる業務効率化とは質を異にすると、大川恭史社長は真意を語る。

「提供側の都合ではなく、お客様が喜んでくださる価格や商品内容の実現に、いかに応じられるか。そのポイントをつかむために数値化や実績データの活用が必要であり、その先にシステム化による最適な生産計画があるのです」

実際、同じ商品でも包装形態を変更して売上が伸びた例もあるという。そこに顧客ニーズがあるなら、包装の工数が増えても顧客が求めるところへの最適化を図るのがオーカワパン流なのだ。

 

受発注から機械稼働までデータを収集・一元化

大川社長の構想を実現すべく情報化の推進を担うのは、システムと製造部の部長を兼任する森本健嗣氏である。業務プロセスをコンピュータ化できる分野、人が付加価値を生む分野に整理。上図のように各分野ごとに正確なデータを収集・分析活用するシステム化を進めている。


「食品製造に関わるデータは多岐にわたります。他の製造業に比べ機械の稼働データ収集(IoT化)も遅れていますが、正確なデータを一元管理して分析し、最適な生産計画予測へAI化を進めます」と森本氏は話す。

AIはデータがなければ予測を行えない。同社はその根拠となるデータの蓄積を急ピッチで進めているところだ。

理想的とする姿は、翌日作るべき数量の予測とそれを実現する最適な工程計画の作成(作る順番、必要とする人員の最適化)までをAIが担えること。限られたライン・人員を最大に活かし、また、工数のかかる商品は最適数量に限定するなどの対策も考えられる。商品を数アイテムに絞り、集中的に販売して売上を上昇させる大胆な予測が出たら面白いという。

 


最適な生産プロセスの実行には、複数の作業に柔軟に対応できるよう、人の側の多能工化も必要である。社内では多能工化に向けマニュアルを作成し、人材育成にも力を入れている。

「生産性が高ければ手間をかけてでも、お客様の要望にお応えできる。食品製造工場発のシステムで業界全体の生産性向上にも寄与したい」と大川社長は力強く語った。