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漁師の心意気を顧客に届けたい どうする?生産や売上の管理

甘エビ専門店「海の人」 蝦名専務

2015年 秋号 2016.01.15


札幌から北へ車で3時間。日本海に面した北海道羽幌町は甘エビの漁獲量日本一を誇る。獲れたてだからこそのプリプリした新鮮なエビは調味料いらずのおいしさだ。しかし、札幌へ、東京へと輸送されたエビは、質の良さに変わりはないものの、漁師や地元の人が食するものと同じではない。

「漁師が苦労して獲ったエビを、『美味しいね』と味わってほしい。でも、羽幌まで足を運べない方も多いので、このエビの味を全国に届けたいと、商品を開発しました」

甘エビ専門店「海の人」として、甘エビの酒蒸しを製造販売する蝦名漁業部・蝦名桃子専務はこう打ち明ける。

社名 有限会社 蝦名漁業部
所在地 北海道苫前郡羽幌町南1条2丁目
設立 1972年(水産加工は2014年より)
代表者 代表取締役社長 高岡護
事業内容 塗料、顔料の販売、塗装工事、防水工事等
水産加工部門の従業員数 5名
URL http://www.uminohito.jp/

原価が高騰しても価格を決められない苦悩

同社は籠を用いたエビ漁を生業としている。2014年より、蝦名専務が水産加工品の製造と販売をスタートさせた。背景には、第一次産業ならではの課題もあった。

「自分たちが獲ったエビにもかかわらず、自由に値段をつけられません。ガソリン代や資材の費用が上がっても転嫁できないつらさがあります。命がけで海に出ている漁師たちや後を継ぐ若い人たちが希望を持てるようにしたいと思いました」

酒蒸しと子持ち甘えび

左)酒蒸しの200gパック例
右)エビの良さが伝わってくる子持ち甘えびの例

そこで考案したのが、エビが持つ本来のおいしさをそのまま保てる酒蒸しだったのだ。

適切に冷蔵管理した活きたエビを選別して蒸し、ヒゲを切ってあくを取り…すべて手作業だ。手間はかかるが、加工に携わる女性の半数は漁師の妻であり、漁に出る夫やエビへの思いは同じだという。

パッケージを入れる?業務管理が課題に

現在は物産展や北海道関連商品の販売所、テレビショッピング、レストラン、そしてWebサイトにて販売。蝦名専務自ら販売現場に立つ、文字通りの六次産業化である。地元では「火を通したエビが売れるのだろうか」と疑問を持つ人もいたというが、売れ行きは上々である。

商品が動きだすと、製造や出荷の管理、請求など業務処理や経営管理をどう進めていくかが課題になってきた。

「何かシステムを入れたほうがよいのだろうか」と考えた蝦名専務は、北海道庁の紹介で、北海道中小企業家同友会が事務局を務める「小規模企業従業員等スキルアップ支援事業」に参加。ITコーディネータ佐々木身智子氏による「企業版家庭教師」を受けた(制度は支援機関の欄を参照)。

取締役 専務 蝦名桃子氏

取締役 専務 蝦名桃子氏

加工、パッケージデザイン、販路開拓、取引業務などをバイタリティあふれる行動力で実行してきた

同社を訪問した佐々木氏は蝦名専務が実現したいことをよく聞き、第一ステップとして業務の手順を定め、漏れがないようチェックできる体制づくりを指南した。ITツールも、すぐにパッケージソフトを入れるのではなく、表計算ソフトExcelを使って生産や受注の業務ごとに記録をつけ、集計する方法をアドバイスした。業務の流れが定着してからパッケージを入れればよいとの見立てだ。これが功を奏した。

「売上台帳をつくり、売上を計上したら入金予定をチェック、また、生産日報をつけて使った原材料を記録すると商品在庫が見える。知りたいことやすべきことが整理できるようになりました」と蝦名専務は微笑む。計算式を埋め込んだExcelのシートによって、給与計算も簡単になった。

5名の従業員も佐々木氏の指導でExcelの操作方法などを学び、ITスキルを向上。事務作業を分担することが可能になった。商談に飛び回る多忙な蝦名専務を支える体制づくりは今後の発展のカギなのだ。

同社の次の目標は、自社の加工工場と販売所など「足を運んでもらえる場」を作ることだ。「エビを求めてたくさんの方に羽幌町に来ていただきたい。漁師の励みにもなると思います」と蝦名専務は目を輝かせた。

エビに込めた思いが町のさらなる活性化を生む日も近い。 蝦名事業部のIT活用

支援機関紹介

事業担当マネージャー 畠山幹生氏  事業担当 中尾剛一郎氏一般社団法人北海道中小企業家同友会
事業担当マネージャー
畠山幹生氏(写真左)
事業担当
中尾剛一郎氏(写真右)

北海道庁の委託事業である「小規模企業従業員等スキルアップ支援事業」の実施機関となり、佐々木氏を派遣したのが、北海道中小企業家同友会である。地域企業の自主的・主体的発展と連携を支援する会員組織である。

同事業は、道内各地で個別相談会を開催し、希望企業に専門家を「企業版家庭教師」として無料で派遣する事業だ。目的は従業員のスキルアップによる処遇改善である。

個別相談会は全道28カ所で開催した。事業担当マネージャーの畠山幹生氏は、「札幌まで来られない地域の小規模企業の従業員の方々を支援すべく、遠方を中心に相談会を開催しました。現地でまず相談員が話を聞き、相談内容に応じて100名以上登録のある専門家から適切な方を派遣しています」と説明する。

内容はマナー研修から経理・労務、IT活用など幅広い。IT関係では、SNSの活用による動画PRやWebマーケティングなどの成果が見られている。

「引き続き小規模企業を応援していきます。この制度を上手に活用してください」と、畠山氏は呼びかけている。

サポーター紹介

ITコーディネータ 佐々木身智子氏ITコーディネータ
佐々木身智子氏
ITC札幌有限責任事業組合
副会長

 

ICT企業の役員を経て、地域企業のサポーターとして独立。経営者の意図を理解し、その企業にあったIT活用をわかりやすく指南する姿勢には定評がある。道内ではWebセミナーなどIT経営セミナー講師を務める機会も多い。

中規模企業のシステムリプレースやWeb戦略立案から小規模企業のIT活用まで幅広く対応。一次産業がさかんな北海道の風土を踏まえ、北海道フードマイスターの資格も取得している。

蝦名漁業部へは、札幌から往復7時間近くをかけて訪問。「パッケージソフトを入れることよりも、業務のプロセスを確立することが大切」と認識し、業務手順の確立、情報の整理やパソコンの使い方の指導を行った。

蝦名専務は、「ここまで仕組みをつくれて本当によかった。佐々木さんはわからないことを何でも聞くことができる専門家。私たちのIT活用レベルに合わせてくださったことにも感謝しています」と笑顔で話している。


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