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交通事故。119番できないのにドクターヘリが!<IT活用事例>

ドクターヘリ

Webオリジナル 2016.04.04


あIoTを使うと、命を救うことができる。モノとモノがインターネットにつながるIoTやコンピュータのデータ分析技術は、今までできなかったことを可能にし、人々の生活を豊かにする。

その例として、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)の「MCPC award 2015」にてモバイルパブリック賞を受賞した「D-Call Net」を紹介したい。

IoTを使って命を救う救急自動通報システム「D-Call Net」

よそ見していてカーブを曲がりきれず、車が崖に転落。意識が遠のいて通報はできない。車の往来はあるが、道路から見えないため、発見してもらえない……。

バラララ……。

ヘリコプターの音がする。

向かってくるのはドクターヘリだ。

そう、重症で動けない私を救急搬送するために来てくれたのだ。

誰も、119番していないけれど。

スピーディな高度医療で命を救う

重症率が高いと推測される交通事故が起きた際に、119番通報がなくともドクターヘリが出動できる──これが、人の命を救うためのIoT活用サービス「D-Call Net」である。

この仕組みは認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)D-Call Net研究会が開発・提供している。

2015年の交通事故による死亡者は4117名。この数を減らすことが目的だ。

「外傷診療は時間との勝負です。事故発生から治療開始までの時間をいかに短縮するかが課題でした。手術が早ければ救える命があり、後遺症も減らせるのです」

日本医科大学千葉北総病院 本村友一氏

日本医科大学千葉北総病院 本村友一氏

同プロジェクトに参加し、ドクターヘリの基地病院でもある日本医科大学千葉北総病院の医師、本村友一氏は救急医療の実際をこう打ち明ける。

ドクターヘリとは、医療設備を搭載したヘリコプターで医師と看護師の医療スタッフがいち早く救急現場へかけつけ、救急医療にあたるシステム。また、患者を基地病院に搬送し、経験豊富な専門医が集まる病院で高度な治療を迅速に行うのである(現在全国38道府県・46 機配備)。

救急ヘリの装備

ドクターヘリの装備

HEM-Netの調査では、ドクターヘリの導入により、従来の地上救急に比べて救命率は3割以上向上し、完全に治って社会復帰できた人は1.5倍だという。

ドクターヘリの力を、「さらに早く現場に到着させる」ことで一層の救命に役立てようというのがD-Call Netなのである。

D-Call Net 導入前は、交通事故発生から重症者治療開始までの平均所要時間は次の通りであった。

①事故発生から通報…5分
②通報からドクターヘリ出動要請まで…15分
③出動から治療開始まで…18分

ヘリの速度は上限があるので、短縮できるのは、①の事故発生から通報までの5分と、②の通報からドクターヘリ出動要請までの15分、合計20分。
D-Call Netは、①+②の20分を、17分短縮させることに成功。
事故発生からドクターヘリ出動までの時間を、なんと「3分」にしたのである。

事故と傷害の情報を結び付ける

大幅な短縮を実現した背景には、車から事故情報を自動で通報し、重症度が高いと予測されたときに事故が起きた地域を管轄するドクターヘリ基地病院に自動通知する、IoTとコンピュータを使った自動通知の仕組みがある。

その詳細を見ていこう。
システムは、

  • D-Call Netモジュールを搭載した車載器(現在はトヨタとホンダの一部車種)
  • 重症度を判定するコンピュータシステム
  • ドクターヘリ基地病院での連絡受信(タブレット)

の3つをネットワークでつなぐものだ。

D-Call Netシステムの概要

出典:「MCPC 成功したモバイル/IoT事例2016」より

ただ、事故には軽傷のものもあり、すべての事故にドクターヘリが出動するわけにはいかない。

そこで、ドクターヘリの出動が求められる事故かどうか、車の走行速度や衝突向きなどの事故情報からコンピュータで重症度を予測し、重症度予測値が一定のレベルを超えた場合に基地病院に連絡がいく仕組みをとっている。

この重症度判定のアルゴリズム(過去の事故情報と救急医療データの関係性から導かれる重症度の計算手順)が、システムを適切に運用するポイントとなっている。

認定NPO法人 救急ヘリ病院ネットワーク 理事 石川博敏氏

認定NPO法人
救急ヘリ病院ネットワーク
理事 石川博敏氏

HEM-Netの石川博敏理事は次のように打ち明ける。
「自動車事故の緊急通報の研究と実装に15年の実績がありますが、発信するのはエアバックが開いた場合の位置情報でした。事故の詳細情報と傷害度を関連付けたデータはアメリカにはあったものの日本にはありませんでした。そこで、警察が持つ事故データを統計分析するとともに、損害保険会社や救急医療のデータを参考として、判定アルゴリズムを開発したのです」

事故と傷害の内容をデータ化し、その関連性を検証する初めての取り組みだった。この研究の社会的意義は大きい。

D-Call Net研究会では、引き続きデータを蓄積し、判定精度を上げていくとのことである。

医師にとって見やすい画面を追求

病院側の受信方法をタブレットにしたのは、「すでに様々なIT設備があり置く場所を選ばないことと、病院内ネットワークシステムにより新たに有線回線を引けない場合を考慮したから」(本村医師)という。

ネットワーク化と、サーバーの運用、基地病院のタブレットへの連絡インタフェースはKDDIが担当した。

ドクターヘリチーム事務室のIT装備の様子と日本医大千葉北総病院

ドクターヘリチーム事務室のIT装備の様子と日本医大千葉北総病院

KDDIソリューション営業本部 高木由紀子氏とソリューション推進本部 照山和美氏

KDDI ソリューション営業本部 高木由紀子氏(写真右)
同 ソリューション推進本部 照山和美氏(写真左)

HEM-Netが求めるシステム化を形にしたKDDIソリューション営業本部の高木由紀子氏は、特に留意した点について次のように振り返る。

「事故状況を伝えるタブレットでの受信画面表示は、見やすくするよう数字を大きくしたり車の絵を入れるなど、意向を伺い何度も試作しました。また、タブレットへの緊急連絡を見逃すことがないよう、着信音が出るパトライトも設置しました」

 

D-Call Net タブレットでの受信画面例

タブレットでの受信画面例

タブレットの画面は、救命にあたる医師が正確にスピーディに動けるよう、「車の絵の向きを医師が患者に対面する人の向きに合わせるなど、現場の医師の目線で、わかりやすさを工夫しました」と本村医師。「良いものができたと思います」と感想を話す。

今後の普及に向けては、D-Call Netに対応した車を増やしていく一方、対応できるドクターヘリ基地病院を広げることも求められる。

石川理事は、「D-Call Netを契約すると自動車保険が安くなるといったインセンティブも必要でしょう。警察との連携も強化したい」と話している。

車を運転する機会が多いなら、次の買い替えにはD-Call Netに対応した車種を選び、万が一に備えたいものである。

最後に、D-Call Net研究会が公開している訓練映像を紹介する(YouTubeの動画)。


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