試してわかったIoT活用の課題―新潟からの報告
Webオリジナル 2016.03.25
COMPASS 2016年冬号特集にて、IoT(Internet of Things モノのインターネット)を活用する例の一つとして、にいがた産業創造機構(NICO)・IT戦略研究会の「建設現場安全管理システム」実証実験を簡単に紹介した。ヘルメットにセンサーを設置し、土木作業現場で働く方々の健康管理や労務管理に役立てることはできないか、というものだ。
この取り組みは、どんな課題と結論が出たのか。気になる結果は……。
にいがた産業創造機構はこの取り組みを含め3つのシステムの実証実験にトライした。2016年3月3日にはIT戦略研究会の成果報告会が行われた。
報告会の内容を、プロフェッショナル人材戦略 サブマネージャーの星野雅博氏にレポートしていただいた。(編集部)
成果報告会の目玉となった「建設現場安全管理システム」
まず、公益財団法人 にいがた産業創造機構の情報戦略チームが毎年行っているIT戦略研究会について簡単に紹介しましょう。
県内のITベンダーとユーザ企業が複数社参加してアプリケーション開発のプロジェクトを組み、問題解決に必要なIT関連技術を使ったプロトタイプを作って実証実験を行い、今後の具体的なシステム開発の一助とする、というものです。
システム開発の後押しとして、ベンダー、ユーザ双方のためになるようにまずはお試しを作って、可能性を探ろうという性格が強いものです。ここで直接完成品を作るわけではありません。
研究会から製品化に進んだ成功事例としての一つが、農作業の記録・圃場管理アプリ「アグリノート」です。
今回は、IoTを基本とし、昨年から取り組んでいるモバイル端末のビジネス利用も含めて3つのプロジェクトで開発を進めました。
①と③がIoT、②がモバイル端末利用となります。
- ①製造業におけるNFCを利用したトレサビリティシステム
- ②大型商業施設における売場・商品案内アプリ
- ③建設現場安全管理システム ←これが、COMPASSで紹介された取り組み
仕事中の気象環境や体調を把握できないか
今年の報告会はIoTをうたってPRしましたので、③の建設現場安全管理システムが今回の目玉となりました。
テーマ
ITを活用して作業員の体調管理や作業場所の把握を行い、事故リスクを低減する(事故の要因はいくつかあるが、今回は作業員に焦点を当てている)
方法
IoTの活用により、作業員に装着したセンサー類から以下のデータを取得する
- 外気温、湿度(作業環境の把握)
- 作業員の現在位置(危険な場所に一人でいないか)
- 作業員の体温、心拍数(急上昇、長時間低下しないなど)
建設業では、平成26年度に17,184人の死傷者が発生しており、うち死亡は377人。直接的な原因は、転落・転倒・挟み込まれなどが多く挙げられますが、背景には、作業員自身の心理的要因、不注意、能力的な要因があるからです
見えてきたセンサーの装着への課題
センターの装着方法として、今回は、ヘルメットに取り付ける方法で試してみました。
市販のシングルボードコンピュータにセンサーを組み込んだボックスをヘルメットにガムテープで留め、気温、湿度、気圧(高度測定用)測定用とし、アメリカでランニング用に市販されている心拍センサーを額に張り付けて使いました。
これらを実際に作業現場で試したところ、データを取得できることは実証できました。
では、実用化にあたって、現場で使用可能にするためのウェアラブル化をどのようにどこと行うのか。実装の方法が次の焦点となります
もう一つ、体温測定も検討したのですがセンシング技術が公表されていないようで、まだ結論が出ていません。
体温、心拍など、生体用センサー(体に着けるセンサーで今回は額の心拍センサー)は高価で、かつデータ取得が難しいこともわかりました。
「難しい」とわかるのも一つの成果ですので、生体用センシングがどのように解決できるのかをもう少し探ることにしました。
その他、
- センサーや取り付けるためのヘルメットの改造といったハード面の制約
- 高層建設物での3次元位置測定
- 現場でのネットワーク設定など、
乗り越えるべき課題が様々見えてきたところです。
考えているだけでなく「やってみて具体的に問題が見える」のは実証実験の良さといえます。
課題はウェアラブル化。IoTは産業全体のテーマ
世間ではIoTと声高に叫んでいますが、いわゆる製造業とIT企業のコラボが必須です。
今回の報告会には、こちらから声をかけて電子機器に強い中堅製造業にも来てもらいましたが、興味を持っていただいたようで、今後の協業の可能性に期待しています。
すでに市販されているIoTデバイスの利用は利用方法も公開されていますし、市販のワンボードコンピュータと市販のセンサーを組み合わせたボックスを自作すれば自動データ取得は十分可能、問題解決を図ることはできるということで、地方のITベンダーも取り組み方によっては結構IoTに対応できることがわかりました。
ただ、ある程度予想はしていましたが、ウェアラブル化が大きな壁となっているのが現状です。
特に、低予算の中でベンチャー、中小ITベンダーがどのように取り組みむのか、クラウドファンディングの利用なども検討するか、大手デバイスメーカーとのコラボはあるのか、などなどIoTの取り組みは産業全体の課題だというのがよくわかったプロジェクトでした。