一気に現実味!2022年へ不動産DXに挑戦する中小企業
*IT導入補助金の活用働き方改革経営の見える化顧客対応のスピード化不動産業20人以下その他顧客管理
2021年夏号 2021.10.13
賃貸仲介業は無店舗化も? データの統合管理でDXを推進
―山梨県甲府市 不動産業 けやき総合管理
「3年計画のDX推進を一気に前倒ししました」
山梨県甲府市を中心に不動産業を営む、けやき総合管理の谷隆仁社長は、今、スケジュールを書き換え、精力的にデジタル化を進めている。
同社は賃貸物件の仲介業(一般顧客対象)と賃貸物件管理業(物件オーナーが顧客)を主要事業とし、5店舗を構える。
賃貸仲介業においては、デジタル改革関連法にともなう宅地建物取引業法の改正により、2022年から賃貸仲介における契約書や重要事項説明書等の電子化・押印廃止が認められ、大きな節目を迎える。オンライン化で不動産業界のDXを加速できるチャンスだ。
会社名 | 株式会社けやき総合管理 |
住所 | 山梨県甲府市国母 5-9-19 |
設立 | 2008年 |
従業員数 | 20名 |
事業内容 | 不動産業・主に賃貸物件管理(オーナー向け)、賃 貸仲介業 |
URL | https://www.keyaki-s.com/ |
事務作業を最小に、顧客には利便性を
けやき総合管理では、2019年秋、ペーパーレスと業務効率化を目指し、賃貸物件仲介業務(募集、広告、契約、顧客管理など)をカバーするITツール「ESいい物件One」(提供:いい生活)を導入した(IT導入補助金を活用)。
顧客側の情報収集はネットにシフトしているが、物件を決めた後は、たくさんの書類に記入し押印するスタイルは変わらずだった。
「マンパワーに頼っていたら、働き方も変わりません。システムを使って工数を減らし、FAXや電話の利用もできるだけ抑えたいと考えました」
谷社長は業界の常識を時代に即して変えようと挑んだ。デジタル化は顧客にも利便性を提供できる。不動産業界のITツールは様々提供されているが、拡張性があること、常に改良を重ねていくITベンダー側の姿勢から、このツールを選択したという。
注力したい業務に時間を投下できる!
導入後の現場の様子を、賃貸仲介業の甲府店長を務める小川達也氏は次のように話す。
「来店されたお客様にはタブレットから情報を入力いただき、内見記録など顧客管理もできるようになりました。また、物件情報をネットの紹介サイトにアップするのは手作業でしたが、今はシステムに登録してあれば1度の操作で数社のサイトに情報を公開できます」
店内では物件情報もタブレットで提示し、紙を減らす工夫もしている。また、VRを使った内見サービスなども提供中だ。
導入後は、サイトへの物件公開作業時間が3割短縮、残業時間の削減など効率化を図れた。捻出した時間は、賃貸物件管理業務に投下していく。
今は、先に使っていた賃貸物件管理システムの内容を新システムに統合中だ。完了すると賃貸仲介から物件管理まで情報が連携する。自社管理物件に入居した顧客については仲介時の情報を紐づけられるので、入居後のサービスを強化して、物件オーナーの満足度をさらに高める計画だ。
谷社長へのインタビュー
「2022年、不動産DX で人の役割はどう変わるのか」
ネット経由で追加取材を行った。
(文中敬称略)
—顧客情報から物件管理までデジタルデータを統合管理した後に実現する姿とは?
谷 賃貸仲介においては、紙や対面接客の縛りがなくなります。いただいた顧客情報を反映し印鑑レスのデジタル契約書が作成されますので、お客様が希望されればご来店なしでネット上で重要事項説明も行えます。となると、「無店舗化」も現実味を帯びてきます。
費用が抑えられれば仲介手数料を下げられるので、価格競争が生まれるでしょう。先手を打ってお客様の利便性を高め、競争優位を確保していきます。
—デジタル化で既存の業務がなくなると、社員の方の仕事内容はどうなりますか。
谷 賃貸仲介事業に関しては、より豊かな情報を発信したり、ホームステージングなど住み方の提案にシフトするでしょう。賃貸物件管理事業では、人脈を広げ物件オーナーのことをよく理解し、提案する力が勝負になります。
—働き手にも変化が必要なのですね。
谷 実績がある人ほどこれまでの成功体験に縛られがちですが、もう「モーレツ社員」の時代ではありません。お客様が求めるものに沿ってマインドを変えられるかどうか。
「守られた業界」でもあった賃貸仲介業界は、変化にともない店舗の在り方が問われています。会社の新しいスキーム作りを急ピッチで進めつつ、人材育成にも力を注いでいきます。