時代に合った人材育成を進めるには?
情報のギャップを埋め、的確なサポートを

2025年秋 2025.12.09
営業担当者の育成にはどんなデータの活用が有効か?
―岡山県岡山市 産業機械販売 前嶋
工場の中で稼働する産業機械の販売、さらに取り付け工事や整備・修理。岡山県岡山市の前嶋は、製造業のビジネスを支える商社である。2025年には75期目を迎え、同年5月に前嶋隆志社長に代替りしたところだ。

代表取締役社長 前嶋隆志氏
近年、製造現場ではIoTを用いた機械の予防保全などITを活用する機会が増え、同社も販売を行っていた。
「お客様には積極的にIT活用をご提案していましたが、自社の問題としてはまだピンとこないところがありました。コロナ禍から数年過ぎ、弊社も人手不足や人材育成の面で苦戦することが増え、これこそITが解決するものではないかと、恥ずかしながら気づきました」
生産年齢人口の減少や働き方の多様化など経営環境の変化に対応すべく、前嶋社長はデジタル化・DXの推進に向け、情報収集を始めた。
セミナーに参加すると他社の事例発表は具体的で興味深く、参考になった。ただ、同じ業種でないと使うITツールが異なる場合も多く、「自社で推進する場合、何から手を付ければよいのか」まではわからない。
そこで、専門家のサポートを受けられる岡山県産業振興財団の「実践型DX推進人材育成事業」に参加し、AIPA認定AI・IoTマスターコンサルタントの玉置順一氏とともに自社に必要なIT活用、DX推進へと踏み出した。
| 会社名 | 株式会社前嶋 |
| 住所 | 岡山県岡山市南区福成2-22-3(岡山機工センター) |
| 代表者 | 代表取締役社長 前嶋隆志氏 |
| 設立 | 1951年 |
| 従業員数 | 55名 |
| 事業内容 | 産業機器の販売・施工及びメンテナンス |
| URL | https://www.maejima.co.jp/ |
●営業支援ツールとチャットツールで優先課題に取り組む
自社同様にデジタル化をスタートしたばかりの会社の話を聴き、紙の帳票を電子化したり、Excelの活用から始めたりなど、あまり構えすぎることはないとの安心感は得られたが、玉置氏との対話を通じて「とりあえずITツールを入れる」だけではうまくいかず、その前段階が重要であることを理解した。
「出発点はツールではなく現状把握。うまくいっていないところはどこか、自社のボトルネックや課題を抽出することから始まるとアドバイスをいただき、社員とともに取り組みを開始しました」
前嶋社長はこのように振り返る。
玉置氏はAIPAの「DXプロセスガイドライン」に基づき、現状把握・課題抽出と、あるべき姿への課題解決策策定を進めた。
では、同社が解決すべき優先順位の高い課題とは何だったのか。
商社として多数の商品を理解し顧客に即した提案を行うには営業担当者自身のスキルアップが欠かせない。ただ、個人に任せすぎるとスキル不足のまま壁にぶつかり意欲をなくし、退職に至る可能性もある。手厚い指導を行うと先輩社員が多くの時間を取られてしまう。
現状分析の意見交換を通じて、社員のスキル差を生む原因は「情報共有がうまくいっていない」ことにあると見えてきた。先輩社員は経験を通じて仕事を理解しナレッジとして蓄積している一方で、情報量が少ない若手にはそこが見えていないからだ。
一人ひとりがどこで躓いているか、何に困っているかを把握できるようにし、必要な情報を共有・活用できる環境構築が求められた。
玉置氏から、目的に沿うITツールの候補提案を受け、システムの特性やランニングコストなどポイントを踏まえて選定。
2025年2月に営業・顧客との関係強化に役立つ「SalesForce」と、連絡や意見交換などを文字で行えるチャットツール「Slack」を導入した。
「SalesForce」は営業活動をプロセスごとにフェーズ分けして記録できる設計がなされており、誰がどこで躓いているか、データからそれぞれの傾向を把握することができる。「一律の指導ではなく、データに基づいて効率よく的確に導くことが可能になる」と前嶋氏は期待を込める。
「Slack」は参加メンバー間の文字による対話や、プロジェクトやトピックごとのグループ内利用が可能。情報が整理され必要な情報を見つけやすく、AIによる会話の要約機能が利用できる。
現在、部署内での情報共有や直行直帰の連絡、有休休暇申請、営業車利用前のアルコールチェックの記録などが進んでいる。また、検索機能が優れており、キーワードだけで他の社員の発信を簡単に見つけ出せるので、とくに若い社員の感覚にマッチしてるとのことだ。

社内における「Slack」の活用イメージ
導入時の決め手は「SalesForce」と相互連携できることだった。特定の案件に関わる商談情報をチャット上に表示して状況確認や相談、アクションの決定、AIエージェントの活用も可能である。
前嶋社長は現状について、「今は3、4割の地点。まだまだ山がありますが、同じ部署どうしでも皆が知っていると思い込んでいたものが共有されていなかったことを発見できたり、工事部門からIT活用の要望が上がって来たり、変化が出ています」と話す。
●「産みの苦しみ」を支える専門家の広い視野
社内の仕組みを変える際、社員の感じ方、行動はそれぞれだ。結果を出すまでには時間も労力もかかる。「思った以上に大変で、産みの苦しみを感じています。でもだからこそやり始めてよかった」と前嶋社長は打ち明ける。
今回、玉置氏の支援を受けたことは大きな後押しになった。
自社のことしか知らないとそれが当たり前になってしまうが、社外の客観的な眼、特に広い視野からの情報やアドバイスが気づくきっかけになったという。
玉置氏は次のように解説する。
「DXの第一歩は、『鳥の目』で企業全体を俯瞰し、経営理念、経営上の想い、業務上の想いを明確にすることです。業務フローを整理する際、私はホワイトボードに意見をまとめながら問いかけますが、だんだんと皆さんから内発的に意見が出てきて、ベクトルが合ってきたことが印象的でした。課題が絞り込まれ、具体的なツールに落とし込まれることで、実現性の高いものになります。時間はかかりますが、これがIT活用を成功させる大事なポイントです」
AI・IoTをはじめとするデジタルツールは、あくまでも課題解決の手段である。社員自身が現状を認識し、主体的に解決策をとらえることが出発点なのだ。
前嶋社長に今後どのような経営を目指すのかと問うと、次のような力強い言葉が返ってきた。
「私自身の目標として、給与が上がり働きやすい会社になるよう尽力したい。そして、日本のお家芸であるモノづくりのさらなる活性化へ、製造業のお客様に関わる私たちは、人手不足などの現状を乗り越えレベルアップしてお役に立てる関係性をしっかりと継続していきたいと考えています」
<サポータ紹介>
OFFICE TAMAKI
玉置順一氏
AIPA認定AI・IoTマスターコンサルタント
産業・電力系統制御システムのソフトウェア開発などに携わった後、情報系の専門学校にて教務運営を推進。独立後は「ビジネス課題をチャンスに変えるITパートナー」としてセミナー講師やコンサルティングを行っている。
前嶋社長は「商社という事業の特性をよく理解し、私ども立場になって考えてくださった。定量的に測れないため、どこを変え、どこを残すかの判断が難しいなか、プロセスを分解し、理解しやすい環境を作っていただきました。とにかく、来ていただいてよかった、に尽きます」と話している。
*AIPA
一般社団法人AI・IoT 普及促進協会
https://www.aipa.jp/
中小企業に対してAI×IoTによりDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する。AI・IoTに代表される最先端のデジタルツール導入によりDXを実行するプロセスとして「DXプロセスガイドライン」を策定。日本初のDX推進資格である、「認定AI・IoTコンサルタント」(AIC)は、「DXプロセスガイドライン」をはじめ長時間の研修と試験によるAI×IoTに特化した資格である。AI×IoTの導入から運用、マネジメント手法まですべてカバーすることができる。







