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ボトムアップから進める製造業のDX
職人技を「チームの知」に変えるAI・IoT活用

2025.12.09


まず、グループ内の課題を解決しそのモデルを全社DXへ
―岡山県・石油化学品および化学品の受託加工業 中国精油

「私たちの部署では、仕様変更が頻繁に発生します。お客様が出荷する商品は輸出品で、荷を積み込む船が待っており納期が伸ばせない。変更にスピーディに対応できる技術やノウハウを持つ社員の対応でクリアしてきましたが、このままで長期間続けられるのだろうか、という疑問がありました」

石油製品や石油化学製品の製造販売、化学品の蒸留精製、環境保全の受託業務などを事業の柱とする中国精油は、いわば化学のプロフェッショナル集団である。岡山県倉敷市の水島と北九州市に工場を構える。

中国精油 水島工場

 

水島工場のリムグループは、得意先との強力なパートナーシップのもと、プラスチック原料の製造に関わるOEM製造を行っている。

 

会社名 中国精油株式会社
住所 岡山市北区中山下2丁目1番77号
代表者 代表取締役社長 樋口克彦氏
設立 1941年
従業員数 153名
事業内容 石油化学品および化学品の受託加工業
URL https://www.chusei-oil.com/

冒頭にあげた2024年時点での課題意識を語ってくれたのは、リムグループ・グループリーダーの濱本章氏である。

 

水島工場のリムグループメンバー
中央 リーダー 濱本章氏
左 係長 塩川遥花氏 右 係長 三宅裕貴氏

 

●一つのグループがDXに取り組み、全社に広げる!

顧客が求めるプラスチック原料の製造に詳しい社員は、変更依頼がくると自ら計算し直しスピーディに製造指示を出す。工場は毎日稼働しているので、自身の休日にも連絡を受け、対応していたという。
このスキルは素晴らしいものの、常に限られた担当者に頼るしかなく、当人は安心して休めない。対応できる人員を増やすにも人材確保が容易でなく、「背中を見て学ぶ」時代ではなくなった今は、現場での技術伝承は簡単ではない。

濱本氏は、「ITをうまく使ってグループの業務を改善し、ここをモデルにDXを全社に広げていきたい」と考えた。
ボトムアップのDX推進には、同社の代表取締役社長・樋口克彦氏が経営指針の一つとしてDXを掲げたことも追い風となった。

実施に向け、濱本氏はDX推進担当として岡山県産業振興財団の「実践型DX推進人材育成事業」に応募し、AIPA認定AI・IoTマスターコンサルタント・吉村好広氏の支援を受けることとなった。

 

●技術伝承に過去のデータを活用できないか?

では、属人化しがちな製造ノウハウをどう伝承してくのか。
選んだのは、経験による判断や紙に記録したこれまでの生産記録を活かし、生産計画を最適化する方法である。

具体的には、リムグループにおいては、まずペーパーレス化を進めデジタルデータとして活かせるようにした。
続いて、2025年9月からは、時系列データを効率的に収集・保存・管理するデータベースシステム・ヒストリーサーバーを、利用中の基幹システムDCS(分散制御システム)に導入。これで膨大なビッグデータを時系列で記録し、AIによる分析で可視化することが可能になった。

また、蒸留精製グループでは、生産実績データをもとに最適な蒸留精製方法を見つけ出すことができた。具体的には、蒸留精製管理に製造ビッグデータ解析ソリューション「VectorScope」を導入し、物性と設備条件から最適運転ゾーンを導き自動運転を実現。品質の安定化やバッチ作業削減による時短と負荷軽減を図っている。

「インプットしたデータは大量にあるものの、アウトプットができていませんでした。ビッグデータをAI解析することで、条件を入力すれば、最適な蒸留方法を提案できるようになります」
濱本氏はこのように説明する。

取り組みの結果、蒸留精製グループでは、月に600時間だった製造時間が330時間に。45%の削減に成功した。

技術ノウハウを持つ担当者は、自ら計算する役目から、データが正しくアウトプットされているかを確かめたり、顧客とのやり取りに注力したり、スキルを活かした新しい役目を担う。

そのほかの分野では、製造設備にIoTによる振動センサーを設置して故障予知に取り組んだり、費用と効果のバランスを見ながら営業支援ツール導入の可否を検討。
さらに、危険物を取り扱うため人の介在が不可欠な個所を除き、製造現場を自動化するスマートファクトリー化、生産計画と実績をもとにExcelから始めつつAIを活用した需要予測、工場内に設置したカメラ映像をAIで判定し、トラブルや作業の遅れを自動で発見する仕組みも構築中だ。

「工場内カメラの活用は、映像からムダに気づくことができるので、記録だけでなく改善に使えるツールになります」と、濱本氏は期待を込める。

 

●DX推進は、問題と課題の切り分けから始まる

こうしたプロジェクトは実行したいとの思いはあれど、なかなか前に進まないことも多い。前進できた要因の一つとして、濱本氏は、「吉村先生との出会いで知識が広がり、気づいていなかったことに気づけたこと」を指摘する。
また、経済産業省が推進する「DX認定」を目標に据え実際に取得できたことは、自社の整理にもなり励みにもなった。

とくに、ITツール、AI・IoTの紹介や活用アドバイスはもちろんのこと、「DXプロセスによるDX推進の基礎」を知ることができたのが大きいという。
「『まず問題と課題をきっちり分けてください。それができたら言語化してください』と説明いただき、なるほどと思いました。これまで問題と課題をまぜこぜにしていましたが、分けることで対策が明確になりました」
濱本氏はこう指摘する。

仕事の進め方が属人化しているのは「問題」、その結果、他の人ではできないという「課題」が生じており、人を強化するか、システムを入れるのか、システムを入れるならExcelなのかパッケージソフトなのか…と、具体的な選択肢の抽出につながっていった。

最新技術やツールの機能に意識が集中する前に、そもそも今の課題は何かをきちんと整理することの重要性を体験できたのは、今後の財産となる。DXプロセス(DXプロセスガイドラインに準拠)をともに歩める専門家は、DX推進に重要なパートナーといえる。

吉村氏は次のように振り返る。
「使命感を持って積極的に取り組んでいらしたので、たくさん出てくる問題意識を整理し、従来とは別の視点で問いかけてみることもありました。課題を置いて帰ると、次回は整理されているスピード感や、メンバーとしっかり対話されていることも大きかったといえます」

中国精油のホームページでは、DXへの取り組みが公表されている

 

社内の1グループからボトムアップで進みはじめたDX。
取り組みの根底にある考え方について濱本氏は次のように話してくれた。
「私たちにとって、DXは“技術”ではなく“文化”です。新しいツールを導入して終わりではなく、 “挑戦する姿勢”は変えない。学び、継続し、改善し続けることこそが本質だと考えています。これからも現場が主役で、ワクワクするDXを続けていきます」
挑戦を楽しめる「改善マインド」が社内に伝播し、さらに全社的なDXへと展開していくことだろう。

 

<サポータ紹介>
オフィスイーグレイション 代表
吉村好広氏
AIPA認定AI・IoTマスターコンサルタント

システム開発会社にて、ソリューション営業、経営管理などを担当し、2018年に独立開業。中小・小規模事業者の経営者の想いを「構想」から「実行」へとカタチにするため、AI・IoT・ロボットの導入、IT活用、情報セキュリティ対策など幅広い分野で支援している。
中国精油の支援においては、リーダーの考えを理解し、IT導入前の課題整理や言語化から支援を行い、DXの推進に寄与した。同社の濱本氏は「我々だけの知識では限られるなか、知識や意見を参考にいろいろなことに気づくことができ、大きなステップを踏めました」と話している。

*AIPA紹介
一般社団法人AI・IoT 普及促進協会
https://www.aipa.jp/
中小企業に対してAI×IoTによりDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する。AI・IoTに代表される最先端のデジタルツール導入によりDXを実行するプロセスとして「DXプロセスガイドライン」を策定。日本初のDX推進資格「認定AI・IoTコンサルタント」(AIC)は、「DXプロセスガイドライン」をはじめ長時間の研修と試験によるAI×IoTに特化した資格である。AI×IoTの導入から運用、マネジメント手法まですべてカバーすることができる。


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