第1回 地域内の「濃い」関係性
2020.06.17
人手不足を背景に生産性向上が求められている現在、国からも様々な支援策が提供されている。
しかし、遅々として進まないのはなぜだろうか。人を集めるためには給料を上げたい、それには収益を上げなくてはならない。目指すべき方向性は明確であるのだが……。
大都市とは少々事情が異なる地方の中小企業の実情を4回にわたり、明らかにしていきたい。
まずはじめは、「生産性向上より優先されること」の存在だ。
取引先に合理化を求めたが…
老舗のローカルスーパー。複数店舗を経営しているが、全国スーパーとの価格競争により収益性が悪化し資金繰りも厳しい。金融機関の支援により経営改善を進めることになった。
改善計画を立てるため現場業務の効率化を検討すると、取引先にも課題があるとわかった。
取引先の卸事業者からの受発注や納品は旧来からのチェーンストア伝票であり、伝票処理や在庫管理の作業負担が大きい。
ITシステムの活用にて取引情報をデータ化し、検品や照合作業を効率化し、ロスを削減したいところだ。
取引先の卸事業者は高収益企業である。卸売業の経営は厳しいと言われているが、小回りの利く調達機能は地方では重宝がられている。
卸事業者に改善を求めたものの、効率化すると手があいてしまう経験豊富な配送スタッフを作業転換させるのが難しいとの理由で、話はとん挫した。
スーパーは合理的な判断により、他の卸事業者への取引転換を行えばよいのだが、長年培ってきた両社の関係性を失うと地域商工団体からも非難を受けることになる。
金融機関もつなぎ融資と返済猶予で事業の継続を保たせながら、当事者間で何とかうまくいくことを願うしかない。支援組織の人間であっても同じ学校の出身だったりすれば、指摘すらできず、励まし見守るのみだ。過去からの「長くて強い関係性」が、経営理論的には正しい生産性向上への取り組みを阻害していることがある。
儲からないけど断れない
花屋から始まり取り扱い品を青果へと拡大した小さな小売店。
地元産の野菜を地方発送していたことから、いつしか郵便局の発送代行を行うようになった。生産者が都会に出て行った身内へ自家野菜を発送するために同店へ梱包した段ボールを持ち込み、郵便局はそれをまとめて回収している。
発送受付では、なるべく小さなサイズになるように段ボールの内容物や段ボールそのものを入れ替えてあげる親切な再梱包サービスも行っており、地域住民からは郵便局に持ち込むより安くて親切であると評判になっている。
付加価値の高い梱包サービスは、無料で提供されている。無料サービスがあらたな需要を生めばよいのだが、地元の生産者は店の主力商品である野菜を買うことはない。
この店も経営は厳しく、手数料をとるかサービスの内容を見直すのが合理的判断であるが、地域の関係性の維持から、変えることが難しい。
このように、地域固有の事情、とくに地域の関係性維持を優先し、生産性向上への取り組みを進められないことがある。
地域が事業者の改革を阻むブレーキにならないよう、「地域の濃い関係性」を、地域全体で連携して解決することが求められている。
(執筆:加藤剛 寄稿内容は2019年夏号発行時期時点のもの)
→ 連載第二回「国の施策と地方の現状」へ
→ 連載トップページへ