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現場のあらゆるデータをリアルタイムに確認・分析!<IT活用事例>

株式会社シンコーメタリコン 代表取締役社長 立石豊氏

代表取締役社長 立石豊氏

2014年 春号 2016.08.10


見える化で「考える現場」が加速
モチベーション支える家族的な社風

事務所の入口にさしかかると、来訪者を迎えるべく立ち上がり微笑む社員の姿が見えた。まるでホテルのフロントのようだが、ここは溶射を生業とする製造業、滋賀県・シンコーメタリコンである。

「製造業ですがサービス業のようにサービスを大切にしよう、技術はもちろん、シンコーメタリコンのファンになってもらおうと取り組んでいます」

立石豊社長は、自社の信条と行動指針をまとめた小冊子を手にしてこう説明する。

株式会社シンコーメタリコン

会社名 株式会社シンコーメタリコン
所在地 滋賀県湖南市吉永405番地
設立 1993年
従業員数 75名
事業内容 各種金属およびセラミックス、サーメットの溶射加工
URL http://www.shinco-metalicon.co.jp/

付加価値提案で取引先拡大 手書きでは追いつかない

工場の風景。「機械に、未来を溶射する」がシンコーメタリコンの在り方。顧客が製造する機械の使用環境をヒヤリングして最適な提案を行う。

工場の風景。
「機械に、未来を溶射する。」がシンコーメタリコンの在り方。顧客が製造する機械の目的や使用環境をヒヤリングして最適な提案を行う

溶射とは、金属などを溶融噴射して表面に機能皮膜をつくり、耐摩耗、耐熱等の付加価値をつける技術。発電所のタービン、ジェット機のエンジンなど、溶射なしでは成り立たないものが多数ある。溶射で機械の耐久性が上がればトータルコストが下がるので、一度採用されるとリピート注文につながるという。

シンコーメタリコンは創業80年を超えた溶射の老舗企業。名工を輩出し様々なノウハウを有している。年間約2700社と取引があり、新しい業界への提案も積極的に行っている。

取締役 製造部 部長 綾野道雄氏社内の業務をよく知り、システム構築への要件を整理。CIOの役割を担っている。立石社長は、「私がイメージすることを的確にシステム化してくれます。映像関係の対応など物怖じせずスピーディに挑戦する姿勢が良い」と評価する。

取締役 製造部 部長 綾野道雄氏
社内の業務をよく知り、システム構築への要件を整理。CIOの役割を担っている。
立石社長は、「私がイメージすることを的確にシステム化してくれます。映像関係の対応など物怖じせずスピーディに挑戦する姿勢が良い」と評価する。

顧客のオーダーに従って製造するので基本は多品種少量生産。頻繁に取引する会社もあれば、10年ぶりという会社もある。事業が伸びるにつれ、紙の作業指示書では過去の仕事の検索が難しく、作業進捗や納期の問い合せにも即答できないという課題が出てきた。

「ITを活用して生産管理をしよう」──8年ほど前、立石社長は、現場をよく知る取締役の綾野道雄氏をリーダーにシステム開発をスタートさせた。

しかし同社の業務に合うパッケージソフトがなく、紆余曲折の末、綾野氏が要件を定義し、知人のプログラマーがシステムを組む二人三脚が始まった。綾野氏は、「これまでのデータベースや画面の流れを書いた設計図などを渡し、工場を見学してもらいながらディスカッションを重ねました」と振り返る。

生産管理にとどまらず 社内情報を見える化

生産管理を目的に始めたプロジェクトだったが、検討の過程で受注実績や原価、在庫など様々な情報を一元管理する仕組みに行きついた。「シン魂」と名付けられたシステムは、現場のあらゆるデータをリアルタイムに確認・分析できる機能を備えた。

生産計画は3日単位。作業者は工程の開始と終了時にデータを入力し、実績をリアルタイムで計算するので、進捗の問い合せには正確な回答が可能になった。また、社員からは自分が携わる仕事が黒字かどうかもすぐにわかり、営業は「赤字にならない受注をしよう」、製造は「利益が増すよう技術を上げてスピード化しよう」と、自分で考え行動するようになった。

データの見える化が経営者感覚を持つ社員の育成につながっているのだ。綾野氏は、「工程の先を読んで段取りするなど、良い意味で独り歩きし活用してもらっています」と笑顔で話す。

「このシステムによって、攻めの営業はもちろん、工程の空き状況を見て間に短納期の仕事を入れる“攻めの受注”ができるようになったのは大きい」と立石社長は目を細める。

iPad活用の先進企業 動画でよりわかりやすく

シンコーメタリコンは、iPadを「西日本で一番最初に」(立石社長)業務利用した企業でもある。

溶射技術は実際の様子を動画で見てもらうのが一番わかりやすい。タブレットが普及する前から、「ビデオウォークマン」を使って「見せるプレゼン」を行っていたそうだ。

営業におけるタブレット活用

現在は9名の営業担当者がiPadを活用。動画に加え「シン魂」システムにアクセスして工程管理の確認にも活用している。

同社はYouTubeやホームページで動画を使った会社紹介も積極的に行っている。「社員旅行は全員参加」など家族的なつながりを大切にする社風が、動画からも伝わってくる。

社員全員が持ち、立ち返るよりどころとなる冊子

社員全員が持ち、立ち返るよりどころとなる冊子

映像制作も最近は綾野氏の担当だ。多忙な日々だが、その表情は明るく楽しげだ。「社長の思いを具現化し、期待以上の結果を出して貢献したい。シンコーメタリコンが大好きで、会社を良くしたいという気持ちが湧いてきます」と語る。。

会社と社員の関係がクールになってきた時代に、同社の社風はどこか懐かしくもある。好みは分かれるかもしれないが、だからこそ価値があるのだ。

社員の会社への「思い」、仲の良さ、一体感はシンコーメタリコンの大きな強みだ。人の力は無限に伸び、新しいうねりを起こせるのだから。

シンコーメタリコンは、中小企業IT経営力大賞2014にて、審査委員会奨励賞を受賞しました。また、同社の綾野道雄氏は、中小企業庁長官賞を受賞しました。