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従業員4名の会社が、なぜ顧客データベースを持つのか<IT活用事例>

代表取締役 山崎哲男氏

代表取締役 山﨑哲男氏
顧客との対話を通じて、求める墓石をイメージ化する。 商談時は大きなディスプレイやタブレットも活用。

2016年 夏号 2016.10.21


顧客が満足する墓石づくりとは?
「伝える仕組み」が「チーム仕事」を実現する

「次に電話をもらうのは20年後かもしれないが、その時もお客様のことをすぐわかる会社でいたい」

茨城県常総市で墓石のデザイン・製造を手掛ける山崎石材店の創業は江戸時代。山﨑哲男社長は13代目である。顧客の好みに応じたデザイン墓石を提供するなど、成熟産業といわれる業界にあって挑戦や新しい取り組みを進め、「同業から真似されるようなモデル企業」を目指しているという。

過去に墓石を建てた顧客からは、葬儀のタイミングで納骨や戒名などの字彫、建て直し等の依頼を受けるが、久しぶりに電話を受けて顧客の名前と住所、墓の内容・場所を一致させるのは至難の技だ。

「自分がお世話させていただいたお客様ならわかりますが、父が関係を構築した方であったり、私以外の従業員が電話に出たときに、お客様を手間取らせてしまいます。1回の電話ですぐ対応したいとの思いからIT活用が始まりました」

山﨑社長は、このように話す。有名ホテルでは電話をかけると自分が名乗る前に名前を呼ぶことにヒントを得たそうだ。

納得のいくお墓を…山崎石材店

会社名 有限会社 山崎石材店
所在地 茨城県常総市水海道栄町2648
設立 1988年(創業:1747年)
従業員数 3名
事業内容 墓石関連サービス
URL http://www.ishihei.com/
有限会社 山崎石材店

ホームページでは、人生を豊かにするお墓への考え方やオリジナル墓石など情報が豊富。

電話番号から顧客データをすぐ表示

顧客の電話番号から顧客情報を表示させるCTIシステムを約10年前に導入。また、顧客の連絡先や墓の情報などを一覧できる顧客管理システムをデータベースシステム「ファイルメーカー」で構築した。顧客から電話があると、電話番号と紐づき、システムに登録した情報が表示される。

練られているのは「顧客情報」の中身である(下の画面例参照)。山崎石材店では、顧客ごとに墓石の写真やこれまでの対応履歴を登録し、顧客の住所、墓石の位置それぞれを地図(グーグルマップ)でも表示(お墓は住所がないので緯度経度で登録)。

初めて現地に行く担当者や協力会社も、この情報があれば墓地内で迷わずに到着できる。

社長一人で仕事をするなら頭の中に入っている情報で仕事はできる。しかし、従業員を増やし、分野ごとの専門会社と連携して顧客が満足する墓を提供していくには、「関係者で共有できる一元管理された情報が必要だった」(山﨑社長)のである。

また、2拠点の固定電話および社長のスマートフォンから一つの代表電話番号で発信や着信が行えるクラウドPBXシステムを導入。場所を問わず、顧客情報を参照して問い合わせに対応している。

顧客の信頼を得るために関係者が情報を共有

チャットシステムで現場の画像も即共有

日々の業務において発生する情報─墓地での作業の進捗、施工写真の確認、顧客からの問い合わせや業務報告などはチャットシステム(関係者がリアルタイムにメッセージや情報を共有できるSNS型のシステム)を利用。ここに上がった情報から必要な写真や情報を顧客管理システムに登録しているそうだ。

「例えば墓石工事の進捗が気になるお客様からお問い合わせがあった時に、作業状況が文字や画像で共有されていれば、すぐ回答することができます」と山崎社長。

顧客の不安を払しょくする対応も顧客満足度向上に欠かせない。

また、ホームページではデザイン墓石を積極的にPRし、茨城県内にこだわらず顧客を開拓。

これらの取り組みの結果、5年前と比べて売上は1.7倍、顧客数は2倍となった。

システム構築・改良に際しては、茨城県商工会連合会の専門家派遣にてITコーディネータの鹿毛公氏や用松節子氏らのサポートも受けた。「ITは嫌いではないですが、長けた方にアドバイスいただいた方が速い」と言う。

社長一人の仕事からチームによる仕事へ体制と変革を進めている山崎石材店。

「チームで仕事をするときには、“伝える仕組み”が必要です。まだ標準化を進めている途中ですが、究極は、一人で行うのと同じレベルでの共有です」

山﨑社長はそう力を込めた。

消費者の立場に立つと、少子化でお墓との心理的距離が遠くなり、普段縁のない石材店との付き合いには緊張を覚えるものだ。しかし、それは売手側の企業努力が足りていなかったからかもしれない。

山崎石材店がモデル企業となって、全国に顧客指向の石材店が増えることを期待したい。

※山崎石材店は「攻めのIT 経営中小企業百選」2016に選定されました。

サポーター紹介

ITコーディネータ 鹿毛コンサルティングオフィス代表 鹿毛公氏鹿毛コンサルティングオフィス代表
鹿毛かげただし
(ITコーディネータ)

横須賀を中心に活動する。普段は地域の活性化を目指して、商店街組織を対象に支援活動を行っている。

2013年の顧客管理システム開発計画から、経営戦略やIT企画の立案指導、ITベンダーへの発注に関するコーディネーション全般を担った。

山崎社長は、経営戦略やITに造詣が深く、経営戦略や新システムのイメージがある程度固まっていたが、システムの仕様を固めるために、お互い納得するまで質問と回答を繰り返しながら確定していった。

システム発注においては、Filemaker、AWS(Amazon Web Service)、SugarSync等、一般的にはあまり馴染みがないインフラを組み合わせたシステムであったため、柔軟に対応できるITコーディネータと連携してプロジェクトを編成した。

 

ITコーディネータ 株式会社ITC総合研究所 用松節子氏株式会社ITC総合研究所
用松節子氏
(ITコーディネータ)

関東地区の中小企業を熱くサポートしているITコーディネータ。本誌では、西武信用金庫の「IT活用サポート事業」を通じた支援事例に登場している。

経営戦略からIT戦略、システム企画を整理するプロセスはもちろんのこと、企業がITを活用する際の具体的な困りごと(システム・サービスの利用や、運用など)の相談に対応しているのが特徴。データベースシステムFileMakerについては操作からデータベースの構築、活用までサポート可能である。山崎石材店の支援においては、山崎社長の構想を具体化すべく、鹿毛氏の要請をうけ、ITCチームとして山崎石材店のサポートを行っている。

中小企業のIT活用は、汎用的なサービスを自社の業務に照らし合わせてどう使いこなすかが大切だ。ツールをその会社の運用まで落とし込める用松氏のような専門家は、地域のニーズが高いといえる。