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IT企業からメーカーへ第二創業、信用金庫との良好な関係が改革を後押し

2015年 夏号 2015.09.01


スマートフォンが芝生に──進化したテクノロジーの裏側にホッとする芝生の緑を演出するスマートフォンケース「シバフル」。仕掛け人は東京・原宿にオフィスを構えるAGリミテッドである。

社名 エージーリミテッド
所在地 (原宿アトリエ)
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-25-18 THE SHARE 214
設立 2008年
従業員数 5名
事業内容 製造業、小売業、受託開発ソフトウェア業
URL http://agltd.jp/

創業当時、同社はスマートフォン向けアプリケーションを開発するIT企業だった。

飯野健一社長は事業転換を決意した「第二創業」の理由を次のように振り返る。

「スマホのアプリは画面の中でピコピコ動くだけ。画面から外に飛び出し、スマホケースのメーカーとして人を笑顔にできないかと考えたのです」

オフィスの近くに代々木公園があり、「この気持ちよさを持ち歩けたらどんなにいいだろう」との思いから、「シバフル」の発想が固まった。要素技術を調べ町工場を回り、素材を静電植毛する方法を開発したという。

代々木公園の芝生を手元に。スマートフォンケース「シバフル」

商品完成後はプロモーション活動を通じて動画メディアやテレビ番組で紹介され人気が上昇。月に数千個の出荷ができるまでになった。芝の面に企業ロゴや名前などを「レーザー芝刈り機」で名入れした商品も好評である。

売上が伸びているが故の悩み:生産や在庫管理をどうするか

歓迎すべき売上増は、同時に相応な事業運営体制を求めた。

スマートフォンケース「シバフル」はロゴ入り加工も可能

名前や企業名などのレーザー加工商品(右)も人気。同シリーズのネームタグ、コースター、ブックカバーなども。(写真提供AGリミテッド)

「受注と紐づいた在庫管理や資材管理、迅速な納期回答ができるシステムが必要になりました。Excelでの管理が限界に近づいていたのです」と飯野社長は話す。

この悩みを、融資を受けている西武信用金庫原宿支店の菊村光氏に話したところ、同金庫が提供している「IT活用サポート事業」を紹介された。2014年春にITコーディネータの用松節子氏のコンサルティングを受けることとなった。

用松氏がまず行ったのは、業務フローの把握だった。原材料の発注、製造(植毛)、在庫品の管理、さらに名入れなどの加工の流れを、人と情報の二面から整理。データが連動する部分を明確にした。例えば、植毛のステータスに移ると原材料が引き落とされ、植毛中の商品個数が増える。これらがシステム上で連動すれば、データの正確さも保たれる。

「例えばiPhone5用の製品でも、芝の色の違いやレーザー芝刈り機で文字を入れるなど枝分かれしていきます。こうした現状を踏まえた商品マスターの持ち方なども議論しました」と用松氏は説明する。

飯野健一

エージーリミテッド・代表取締役 飯野健一氏

「シバフル」に名入れをする「レーザー芝刈り機」、「ShibaCAL」の前で

この整理に基づきデータベースソフト「FileMaker」を使ってシステムを構築。一つの工程修了を入力するとステータスの変更やデータの更新が行われ、在庫状況を正しく把握できるようになった。

販売量がさらに増えた現在は、生産管理システムとの連動が必要になり、クラウド型の生産管理システムに移行した。成長に合わせてシステムも進化させているが「業務分析をしたことが基礎になっています。良いタイミングで整理ができてよかった」と飯野氏は笑顔で話す。

今後は海外展開を進め売上の20%を海外にしたいとのこと。並行して新商品の開発も行っており、また新しい消費者の「笑顔」を生むことだろう。

サポーター紹介

自称「庶民派ITコーディネータ」。
Webサイト構築支援から生産管理システムまで中小企業の現場で求められるIT活用のコンサルティングを行っている。「FileMaker」については3年前からグループで研究しており、構築支援まで踏み込んだ支援が可能だ。
西武信用金庫の「IT活用サポート事業」においては数名のITコーディネータとチームを組んでいる。それぞれが得意分野を支援する一方でメンバー内で情報共有を行い研鑽に努めている。

飯野社長は「柔軟かつ論理的でバランスに優れた方。良い機会をいただき業務の流れを整理できました」と話している。

中小企業の課題解決に踏み込む金融機関
西武信用金庫

AGリミテッドにITコーディネータを派遣(無料で3回)した西武信用金庫は、マッチングや人脈拡大、販路拡大をはじめ経営者の悩みを解決する支援を、業務の一環として行っている(ITコーデイネータの派遣は「IT活用サポート事業」)。

AGリミテッドの担当支店である原宿支店の田村康彦支店長は、日常の支援活動を次のように説明する。

「普段から経営者の方との関係を密にして交流会へのお誘い、補助金のご案内、専門家の派遣などを行っています。原宿は特に若い経営者の方が多く、ビジネスモデルの新しさを伸ばしていきたいと思っています」

若手経営者の会である西武ニューリーダーズクラブ(SNL21)が毎年開催する交流会では、千人を超える経営者が参加。経営者同士の交流が積極的に行われる。

「金融機関はひたすら数字を追いかけている堅いイメージがありますが、経営者の方の身近な存在であるよう、若い職員とともにご支援していきます」と田村支店長。

飯野社長が西武信用金庫の融資を受け始めてからまだ1年少々だが、在庫管理の悩みを話したことがシステム化のきっかけとなった。「担当者の方は、何か新しい情報があると電話をくださいますし、私も新しい取り組みをした際はお知らせしています」(飯野社長)と良好な関係を築いている。

支援サービスが充実した金融機関と上手に付き合うことも、経営者の仕事の一つといえる。

西武信用金庫・落合理事長のインタビュー記事もご覧ください。


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