「町のパン屋さん」が、味を守りながらファンを拡大<IT活用事例>
2016年秋号 2017.01.17
顧客データの蓄積とFacebookの活用で
訪問数の最大化を目指す
町並みに溶け込む一見ごく普通のパン屋さん。
しかし店舗の横には駐車場が用意され、パンを求める顧客がひっきりなしに訪れる。
岡山県の総社市に店舗を構えるトングウは、創業80年を超える地域に根付いたパン店である。
看板メニューは、シナモンをまぶした揚げアンパン、通称「油パン」。価格はなんと105円だ。ほんのり優しい甘さと懐かしさを感じる手作りの味は、袋に封入された昔ながらのスタイルで提供され、地元の人に愛され続けている。
2007年、従業員だった吉田宣弘氏が社長に就任。先代の意志や人気の商品を大切にしつつ、吉田社長独自の挑戦を始めた。
現在、5年前に比べて売上は2倍に。休日になると岡山市や倉敷市から車でトングウに訪れる顧客も増えている。
会社名 |
株式会社トングウ |
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所在地 | 岡山県総社市駅前1丁目8-63 |
設立 | 2007年(創業は1930年代) |
従業員数 | 18名 |
事業内容 | 製パン、和洋菓子製造 販売、学校給食用米飯委託加工 |
URL |
飽くなき商品開発~品質を犠牲に機械化しない
トングウの特徴の一つは、種類の豊富さである。一日に店頭に並ぶパンは150種類。季節に合わせて毎日のように新しいパンを考案し、試作品を開発。顧客の反応を見ながらより良いものを探求している。
「自分で『こんなパンを食べたい』と思うものを作っているので、アイデアが出ずに困ることはないですね」と吉田社長は笑顔で話す。
顧客側は、懐かしいパンと新しいパンの両方を一店舗で買える便利さがある。
人気の「油パン」は袋の包装機械を導入し、一日あたり最高800 個だった生産量を1500個に引き上げた。さらに個数を増やすには、手作業しているパンづくりを機械化する方法があるが、吉田社長は、それを「しない」と決めた。
「機械で餡を包むには、材料と配合を機械に合わせて変えなければなりません。それは自分たちからすると『パンではない』からです」
顧客の分布を見て販促策~試作品はFacebookで
トングウらしい取り組みを広く伝えてファンを増やすべく、販促策も講じてきた。
一つはポイントカードを作り、顧客の情報をデータ化して誕生月に割引券を送るといったリピーターの獲得だ。
さらに、新聞折り込み広告や地域を区切ったチラシのポスティングなどを実施して反応を見た。「岡山や水島など遠くから来店いただいていることに驚きました。来店が多い地域がわかると、少ない地域にポスティングをしてみるなど、ゲーム感覚で取り組んでいます」と吉田社長は言う。
また、顧客からの要望を受けホームページを開設。さらにFacebookページで新商品や店舗の様子、イベント情報などを写真を効果的に使って発信している。
「Facebookページは、「いいね!」や「シェア」で、お友達にも広がっていきます。試作品を見て食べてみたいと来店される方があるなど、効果は大きいですね」
吉田社長は手ごたえをこのように話す。活用を始めた2014年以降、10カ月連続で売上が対前年比30%アップを示した。
こうした吉田社長の取り組みをサポートしてきたのが総社商工会議所である。新しいITサービスであるFacebookを紹介したのも会議所だったという(高度専門家中小企業支援制度を用いて、近藤浩幸氏がアドバイス)。
地域の人に愛される商品づくりで、地域に愛される会社に成長したトングウ。現在、総社市にはパン店が増えており、「パンの町総社」としてPRするプロジェクトも進められている。