人口減時代を見据えた改革に着手
機械の稼働率把握ではIoTセンサーの自社設置も

2025年秋 2025.12.09
IT・IoTの活用を吟味し、「人だけに頼る経営」を乗り越える
―岡山県和気町 オーダーメイド型製造業 ムカイ鐵工
「これから働き手となる人口が減っていきます。今はそこまで人手不足を感じていなくとも、人だけに頼る経営は今後続かなくなっていくでしょう。 IT や IoT が使えるところは任せたい、DX を推進したいとの課題意識を持っていました」
岡山県和木町に本社・工場を構えるムカイ鐵工の向井賢専務は、2024 年、岡山産業振興財団が主催するビジネスセミナーを聴講した。
経営者としての代替わりを控え、自身の問題意識から、今後の経営について学ぶためだ。

専務取締役 向井賢氏
同社は、2025 年で創業 70 年を迎える製造業。顧客の要望を聞き、思いを形にするオーダーメイドのものづくりを行っている。河川の水門、工場の生産装置、治具など多彩だ。設計から製造・施工、メンテナンスや修繕にも対応する。
生産管理システムはすでに導入しており、向井専務は自ら RPA による帳票処理の自動化やチャットツール活用、室温が一定数値を超えた際の自動通知など IT 活用を少しずつ進めてきた。ただ、まだ全社的な取り組みには至っていなかったという。
| 会社名 | ムカイ鐵工株式会社 |
| 住所 | 岡山県和気郡和気町大田原 325-2 |
| 代表者 | 代表取締役 向井 克彦氏 |
| 設立 | 1960年 |
| 従業員数 | 15名 |
| 事業内容 | オーダーメイドによる製造(各種金属部品や治具、水門を始めとする鋼構造物、産業用装置など) |
| URL | https://www.mukai-tk.jp/ |

● 専門家の支援を活かし、IT が役立つ課題を抽出
「セミナーで印象的だったのが、AIPA*代表・阿部満講師の『仕事の流れをデータで管理・把握していないと従業員の力が十分に発揮されない』という話でした。自社もデータをもとにした経営を進めたいとの思いが強まりました」と向井専務は振り返る。
セミナーに続き、同財団が 10 社限定で専門家が 10 回の個別支援を行う「実践型 DX 人材育成事業」が実施されることを知り、向井専務は手を挙げた。
「自社にどう落とし込むかについては専門家に相談しながら一緒に整理していくのが有効」との考えからだった。
同社支援の担当となったのは、AIPA 認定 AI・IoT マスターコンサルタントの小林真也氏。
支援では IT ツールの推薦や利用説明からスタートするかと思いきや、前半の約 5 回は、現状の分析、社内からの情報収集、目標の整理などを行った。AIPA 資格は、会社現状分析や課題把握、戦略を不可欠のプロセスとし、「DXプロセスガイドライン」のフレームワークを学んだうえで、それらを活用して支援にあたっているのが特徴である。
ムカイ鐵工では会社の取り組みとして社員による「問題提案活動」を行っているが、今回は、「部長から課題を上げてもらったので、身近な困りごとより一つ階層が上の内容になりました。その中には IT で解決できそうなこともありました」と振り返る。
続いて、上がった課題を整理し、現段階での実現の可能性を見ながら 5 つに絞り優先順位をつけた。そのうえで、小林氏と相談をしながら、どんな ITツールがあるか・使えるか、主に5つの領域で検討を進めていった。
テーマと現在の取り組み状況は次の通りだ。
<5つの取り組み課題と対応>
① サーバー内にある製造データファイルの検索性を高める
→既存システムとの関係性を重視して検討中
② 金属加工機械の稼働率把握
→内製化IoTセンサーを設置
③ 設備点検記録の電子化
→タブレット&Google フォームを導入
④ 情報漏洩対策
→保存ファイルのセキュリティ管理ツールを導入
⑤ 作業実績時間(見積時に活用するデータ)の集計
→タブレットから実績を入力して生産管理システムに統合できるよう検討中
● 機械の稼働率測定へIoTセンサーを自作で
2 番目に記載されている機械の稼働率把握は、向井専務がセミナーを受講して感じた「データで管理する経営」の入口になるものだ。
「例えば現場から『もう一台機械を欲しい』と言われたときに本当に必要かどうか判断できます。また、製造部が利益を高めようとすれば稼働率アップが真っ先に出てきますが、今どのくらいの数値かを知っていないと成果を把握できまません」

IoTセンサーは、小林氏のサポートのもと、自力で設置したという。その様子を小林氏は次のように説明する。
「IoTセンサーやハードウェア、サンプルとなる簡単なツールを用意し、皆で設置し、測定のタイミングなどを踏まえながら使っていただくようにしました。ただ、データを集めた後の分析が重要ですから、可視化する=見える化しやすい点にも留意しています」
他の取り組みも含め、IT ツールの選定においては、ピッタリする ものがまだない、また非常に高価ということもある。その際は、例えば加工時間の積算であれば、肯定を分解して表計算ソフト Excel に記録することから始め、システム化する段階にそのデータや実感を活かす方法など、できるだけ安価に実施する方法も提案しているという。
●ITという手段を目的化しない
スタートから 1 年。
課題が明確になり、重要かつできるところから IoTの活用等を進めてきた今、向井専務に今後の取り組みは何かと尋ねたら、次のような力強い言葉が返ってきた。
「計画したことはもちろん実行したい。ただ課題が変化したり今気づいていない問題が出てきたりするでしょうから、支援を受けて印象に残った『ITという手段を目的化しない』という小林さんの言葉をしっかり受け止め、活動を継続していきます。また、今回の資料や記録を参考に、DX 認定を受けられるよう挑戦中です」
DX 認定は、「DX 推進の準備が整っている」ことを国が認める制度。改革を続けIT に積極的な企業として求職者や取引先に自社の魅力を発信することにもつながる。同社のホームページにはすでに「DXへの取り組み」「DX戦略」が明確に記載され、その姿勢を公開している。
DX推進への取り組みは、ムカイ鐵工の成長とさらに魅力的な会社づくりへ、大きな一歩となった。
<サポーター紹介>
小林真也氏
AIPA 認定 AI・IoT マスターコンサルタント
IT インフラ構築・提案に携わり、岡山県内の公的支援機関にて企業のデジタル化支援担当を経て、独立。やさしい語り口で、企業の実際をよく理解して等身大の IT 導入を支援している。いきなり高額なシステムを使わずとも、身近なツールで実感を得ながら成長させていくことを大切にしている。
向井専務は、「ツール利用が目的にならず、何を解決したいのか常に立ち返りながら冷静に進めていくことを学びました。これからもいろいろ教えていただきたい」と感想を話している。
*AIPA
一般社団法人AI・IoT 普及促進協会
https://www.aipa.jp/
中小企業に対してAI×IoTによりDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現する。AI・IoTに代表される最先端のデジタルツール導入を通じてDXを実行するプロセスである「DXプロセスガイドライン」を策定。日本初のDX推進資格である「認定AI・IoTコンサルタント」(AIC)は、「DXプロセスガイドライン」をはじめ長時間の研修と試験によるAI×IoTに特化した資格。AI×IoTの導入から運用、マネジメント手法まですべてカバーすることができる。







